【2020年代目線での】今こそ聴きたいニッポンの大名盤50選〜Vol.4〜大塚まさじ『風が吹いていた』1977
これまで和洋問わず、何千枚もレコードを聴きまくり、またDJの現場感覚から目利きした、2020年代に聴くべき邦楽レコードをお届けする、名付けて、【2020年代目線での】「今こそ聴きたいニッポンの大名盤50選」 […]
1970年から始まった世界的な音楽の革命は、1977年に頂点を迎えた、と思っています。
それ以降のポップミュージックは、単に1970年から1977年に発明された様々な試みの再生産でしかない、のでは、とも思います。
だから、1977年には、世界的に名盤が集中しています。
日本だけでも、思いつくものをざっと挙げただけで、
山下達郎「スペイシー」
大貫妙子「サンシャワー」
吉田美奈子「トワイライト・ゾーン」
ラジ「ハート・トゥ・ハート」
憂歌団「生聞59分」
上田正樹「上田正樹」
大上留利子「タイフーン・レディ」
西岡恭三「南米旅行」
有山じゅんじ「ありのままじゅんじ」
など、枚挙にいとまがありません。
これを1976年、1978年まで広げると、
細野晴臣「泰安洋行」、鈴木茂「ラグーン」をはじめ、
凄まじいほどの名盤が、この3年間に集中しています。
そして、大塚まさじ「風が吹いていた」も、紛れもなく、そのなかのひとつです。
大塚まさじ 『風が吹いていた』 ワーナーパイオニアレコード 1977年
この「風が吹いていた」
何がいいって、
まず、ジャケットです。
LP : A- / A : ディランIIの大塚まさじ2ndソロアルバム。この時代の関西系フォーク/ロック/ブルース界を総…
ちょっとチンピラ風の大塚が、夜のネオンの前で、こちらを覗きこんでいます。
その瞳は、けれど、とても澄んでいて、優しいのです。
日本の誇るべきレコード文化、帯は真っ赤で、そこに味わい深いフォントで「風が吹いていた」とあります。
これだけで死にそうになります。
ところで、レコード、というメディアは、やはり、素晴らしかった、としか言いようがありません。
CD、デジタル配信、ストリーミング。。。
もちろん、その手軽さは魅力です。
けれど、音楽を芸術として表現するメディアとしては、レコードこそが一番適していて、それは、2020年になっても、実はまったく変わっていないのです。
一度でもレコードを聴いたヒトは、その音の良さに一様に驚きます。
特にCDが普及する前に、アナログレコードで販売されていた音楽は、どう考えても、CDは絶対に敵いません。
難しい技術的なことは分かりませんが、この音の良さは、いわゆるハロー効果のようなものでなく、
本当に、音が良いのです。
感動するのです。
また、何が良いって、その長さです。
レコードは、片面、20分以内です。両面聴いて、最大、40分。
この長さがいいのです。
A面に針を落として、20分、聴く。
だいたい4〜5曲でしょうか。
そして、ひっくり返して、B面を聴く。
短いものではすべて30分台で聴き終えます。
長くても40分。
人間が集中して音楽を聴くにはちょうど良い時間です。
しかも、真ん中で、レコードをひっくり返すという休憩が入ります。
さらには、曲を飛ばすことが、なかなか難しい。
普通は、DJでもない限り、1曲目から、片面が終わるまで、一応順番に聴き続けることでしょう。
ですから、昔のアーティストは、曲順にも、とてもこだわりました。
また、今のデジタル配信や、CDと違って、レコードでは最大でも40分という縛りがあるので、アーティスト自体、収録曲を選ぶことが必要でした。ですからレコードには、厳選に厳選を重ねた曲が入っているのです。
そこもまた、素晴らしいです。
そしてジャケット。
この30センチ角の正方形は、ジャケットデザインという芸術を生みました。
そしてさらに、日本だけの独自の文化として、帯、というものも生まれました。
現在のような形のバイナル33回転LPレコードは、1948年、アメリカ、コロンビア・レコードから初めて発売されました。
ナタン・ミルシテインのバイオリン、ニューヨーク・フィルハーモニックによるメンデルスゾーンの「バイオリン協奏曲ホ短調」。
画期的な発明だったことでしょう。
1950年代になると、急激にレコード文化が広がりました。
特に45回転シングル盤は、エルビスの登場により、爆発的に若者に普及しました。
1960年代になると、今度は、それまでシングルの寄せ集め(アルバム)だったLPレコードが、一つの表現手段としてのメディアになります。
そこはビートルズの影響が大きいでしょう。
そして1970年代にレコード文化は完成したわけです。
ということで、大塚まさじに戻ります。
このアルバム。
大塚まさじの詩、曲、歌、
さらには、素晴らしいミュージシャンの素晴らしい演奏が、
高い純度で融合していて、どの曲も、とても奥深いです。
けれど、とてもクリアです。
ロックとか、フォークとか、そうしたカテゴライズが無意味になる、
ここには、ただ、良い音楽だけがあります。
特にB面最後の曲、「10月のある木曜日」。
何をすることもなく
狭い部屋を右左
今日も何一つ唄い出せず
ただタバコをふかすだけ
大塚まさじ作詞 「10月のある木曜日」
最良の小説のような歌を聴けるしあわせ。
石田長生、中川イサト、有山じゅんじ、それぞれの個性が際立つギターの音色。
亀渕由香のコーラス。
国府輝幸のキーボード。
向井滋春のトロンボーン。
スカイドックブルースバンドのアンサンブル。
そして。
大塚まさじの引きずるような、けれどとても暖かい唄い方。
音楽の酢いも甘いも、その深淵をしっかりと掴んだ歌と演奏。
彼らは、それでもまだ、20代の若者だったのです。
これまで和洋問わず、何千枚もレコードを聴きまくり、またDJの現場感覚から目利きした、2020年代に聴くべき邦楽レコードをお届けする、名付けて、【2020年代目線での】「今こそ聴きたいニッポンの大名盤50選」 […]